2026年1月 春桜会レポート

漢方と医療経営のことを学ぶなら春桜会竹林庵 活動報告
2026年1月 春桜会レポート
第一部 竹越先生の講演内容について
1. 漢方治療の哲学:「適応外使用」にこそ真髄がある
竹越先生は、製薬会社の講演会では語ることができない**「適応外使用(公式な効能効果にはないが実際にはよく効く使い方)」**の中にこそ、漢方の本当の面白さと実力があると強調されました。西洋医学の診断名がつかない、あるいはガイドライン通りでは治らない患者さんを救うための「武器」として漢方を位置づけておられます。
2. 「めまい」への新機軸:血流と肩こりへのアプローチ
「めまいは漢方が一番よく効く」という持論のもと、独自の疾患概念を提示されました。
  • ヘモダイナミックVBI(血動態性椎骨脳動脈循環不全): 器質的な病変がなくても、低血圧や体調不良によって脳血流が一時的に低下し、めまいが起こる病態です。特に若年女性や低血圧の方に多く見られます。
  • 肩こり関連めまい: 先生のクリニックを訪れるめまい患者の約4割を占める重要な病態です。パソコンやスマホの使いすぎによる首・肩の緊張が自律神経を介して脳血流を悪化させます。
【主要な処方】
  • 釣藤散(ちょうとうさん): 脳血管の痙攣を防ぎ、血流を改善する「総合めまい薬」として重宝されます。朝の頭痛や肩こりを伴う場合に最適です。
  • 桂枝加苓術附湯(けいしかりょうじゅつぶとう): 肩こり関連めまいの特効薬として紹介されました。先生の経験では約87%の有効率を誇ります。ただし、製薬会社によって成分(ブクリョウの有無)が異なるため、選択には注意が必要とのことです。
  • 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ): ストレスや、視覚刺激(スマホの画面スクロールなど)で誘発されるめまいに有効です。
3. 「咳」と「喉」の症状:西洋薬の隙間を埋める
風邪のあとに咳だけが残る「感染後咳嗽」など、西洋薬では対応が難しいケースに漢方が威力を発揮します。
  • 咳のメカニズム: ウイルスがいなくなっても、喉の「咳スイッチ」が入りやすくなっていたり、不安感が関与したりして咳が続くことがあります。
  • 柴朴湯(さいぼくとう): 喉の違和感や、気持ちの問題が関与する咳に有効です。
  • 柴朴湯+五虎湯(ごことう): 痰が出る激しい咳に対する先生の「ファーストチョイス」であり、非常に強力な組み合わせです。
  • 十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう): 抗生剤を出すほどではないが喉が痛いという場合、AMR(薬剤耐性)対策も兼ねて使用されます。
4. 耳鼻科領域の専門的な知見
  • 糖尿病に伴う難聴: 糖尿病患者が急激に難聴になった際、**八味地黄丸(はちみじおうがん)**を用いると、約8割の症例で改善が見られたという驚きの報告がありました。
  • 再発する鼻血: **三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)**を少量服用することで、繰り返す鼻血がピタッと止まることが多いそうです。
  • 耳の痒み: 外耳道がじくじくしたり、ガサガサして痒い場合には**消風散(しょうふうさん)**が非常に有効です。
5. 習得のアドバイスとリソース
竹越先生は、漢方を学ぶコツとして「生薬の組み合わせ(ユニット)で考えること」を挙げられました。例えば、桂枝加苓術附湯の中に「苓桂朮甘湯」と「真武湯」の要素が両方含まれているからこそ、めまいに効くといった分析的な視点です。
來村先生も、竹越先生の講演を「非常に勉強になった」と絶賛されており、先生が執筆された**電子書籍(日本医事新報社)**を「本当におすすめ」として紹介されていました。
当日参加できなかった皆様は、ぜひアーカイブ動画をご視聴ください。臨床ですぐに使える具体的なテクニックや、先生の温かなお人柄が伝わる素晴らしい内容となっています。
2. 來村先生講演
1. 大王牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)の深掘り
この処方は『金匱要略』の「総徴用(そうちょうよう)」という、現代でいう炎症性の病気を扱う部門に記載されています
  • 基本的な性質と適応: 体をクールダウンさせて炎症を抑え、お通じを良くする働きがあります。特に右下腹部の痛み(中水炎など)、月経不順、月経困難、痔、便秘など、**実証(体力があるタイプ)の「お血(血の滞り)」**に関連する症状に用いられます,
  • 歴史的な症例: かつて自衛隊の船に乗っていた多田先生という医師が、すぐに手術ができない状況下で、中水炎(盲腸)の患者に対して大王牡丹皮湯(と抗生剤)を使い、手術せずに陸まで持たせたというエピソードが紹介されました,
  • 幅広い応用: 中水炎だけでなく、憩室炎、骨盤腹膜炎、前立腺肥大に伴う炎症など、泌尿器・生殖器系の炎症全般に用いられます。また、感染性の下痢において、体内の悪いものを早く排出させて治すという目的で使われることもあります
  • 他剤との使い分け:
    • 桃核承気湯(とうかくじょうきとう): 左下腹部の痛みや、イライラなどの精神症状が強い場合に適しています
    • 通導散(つうどうさん): 便秘やお血に加え、お腹の張りや不安感など「気」の滞りが強い場合に有効です
2. ツボの活用:温溜(おんる)
鍼灸の知見として、手の大腸経にある「温溜」というツボが紹介されました。
  • 場所と効果: 前腕に位置し、「温かいものが溜まる場所」という意味を持ちます。冷え性の改善、前腕の疲れ、喉の痛み、腹痛、下痢などに効果があります
  • 顔面神経麻痺への応用: 顔面神経麻痺の治療において、漢方薬(補中益気湯や五苓散など)の服用に加え、この温溜への鍼灸を併用することで治りが早まるケースが多く、専門家への紹介も考慮されるべきと述べられました
3. 生薬のトリビア:蘇木(そぼく)
今回の生薬解説では、赤色の染料としても知られる「蘇木」が取り上げられました。
  • 効能: 消炎、解熱、鎮痛作用があり、血の巡りを良くして炎症を抑えます
  • 国名の由来: 蘇木の成分「ブラジリン」を含む同種の木が、かつて現在のブラジルで主要な輸出資源でした。その木がよく取れる場所であることから、「ブラジル」という国名がついたという歴史的背景が紹介されました