2025年8月 春桜会レポート

漢方と医療経営のことを学ぶなら春桜会竹林庵 活動報告

2025年8月 春桜会レポート

1. 14大都市医師会における活動報告と現況

14大都市(政令指定都市)医師会の役員が一堂に会する本会議は、都市部特有の複雑な課題を共有し、解決策を模索する極めて重要なプラットフォームです。先般の横浜での開催に続き、次期は京都での開催を予定しており、広域的な連携の輪をさらに強固なものとしています。現在、本会が注力している主要課題は以下の3点です。

  • 都市間連携による危機管理体制の強化 大規模災害(広域地震等)や新興感染症のパンデミックは、一自治体のリソースのみでは対応不可能です。コロナ禍での教訓を糧に、都市間で医療情報を即時に共有し、相互に補完・協力し合える枠組みの構築を加速させています。
  • 行政・国への戦略的提言とデータの利活用 がん検診や特定保健指導といった健診事業において、自治体ごとに異なる実施基準の平準化を推進しています。各都市の優れた取り組み(ベストプラクティス)を共有し、蓄積されたデータをエビデンスとして国へ提示することで、実効性の高い医療政策の実現を働きかけています。
  • 厳しい経営環境下における要望活動 直近のアンケート調査では、会員クリニックの約1割から3割が「10%〜30%の減収」と回答しており、依然として厳しい経営状況にあります。医師会としては、こうした現場の窮状を正確に把握し、物価高騰や人件費上昇に見合った適切な保険点数改定を求めて、国への要望活動を継続的に展開してまいります。

2. 特別講演:コーエーテクモ襟川陽一氏に学ぶ経営哲学と医療への応用

世界的なゲームメーカー、コーエーテクモホールディングスの創業者・襟川陽一氏の講演は、変化の激しい医療界を生き抜くための経営的洞察に満ちたものでした。

  • 成長産業の見極めと「転機」を活かす決断 襟川氏は当初、家業の染料業(衰退産業)に従事していましたが、30歳の誕生日に妻・恵子氏(現会長)から贈られたパソコン(SHARP製)との出会いが運命を変えました。氏は「どんなに努力しても、衰退産業では限界がある。成長分野をいかに見極め、リソースを投入するかが重要である」と説きます。これは、社会構造の変化に直面する我々医療機関にとっても、重要な経営判断の指標となります。
  • ブランド戦略の構築:シブサワ・コウと福沢エイジ 氏はブランド戦略の重要性を強調します。「シブサワ・コウ」という名は、イヴ・サンローラン等の世界的ブランドに範をとり、妻の提案で誕生しました。その由来は渋沢栄一の「渋沢」と、コーエーの「コ」を組み合わせたものです。また、第2のブランドである「福沢エイジ」は、福沢諭吉コーエーに加え、2番目を意味する「G」を冠しています。個人名を超えた「ブランド」としての信頼構築は、医療機関のブランディングにも通じます。
  • 医療へのゲーミフィケーション応用 「歩行」という単調なリハビリや健康維持活動を、領地獲得ゲーム(陣取り)に変換する仕組みなど、自発的な行動変容(アドヒアランス向上)を促す発想が紹介されました。
    • 臨床事例: 千葉大学整形外科チームの研究では、任天堂の機器を用いたゲームが腰痛改善に有意な効果をもたらした例が報告されています。整形外科分野を中心に、ゲーム業界の知見をリハビリテーション等に融合させる可能性は無限大です。
  • プロフェッショナルの使命(ミッション) 元スターバックスCEOの岩田松雄氏の知見も交え、真のミッションは**「好きなこと」「得意なこと」「人のためになること」の3つが重なる点にあると示されました。また、「働く」とは「傍(はた)を楽にする」**ことであるという定義は、患者やスタッフの負担を軽減し、幸福に寄与するという医療の本質的な使命を再確認させるものです。

3. 臨床セミナー:呼吸器症状に対する漢方・養生の実践的アプローチ

咳症状、特に百日咳やコロナ後遺症に見られる遷延性の咳嗽に対する漢方医学的アプローチについて、実践的な指針をまとめました。

3.1 麦門冬湯(ばくもんどうとう)の臨床的有用性

  • 基本属性と古典的知見 『金匱要略』を原典とし、激しい咳や咽頭の乾燥、顔が赤くなるほどの激しい咳き込み(大逆上気)を主徴とする症例に適応します。
  • 薬理作用と臨床的メリット 主薬である麦門冬には、ステロイド配糖体オフィポゴニンが含まれます。
    • 高いアドヒアランス: 麦門冬は「ユリ根」の親戚であり、その甘味から「美味しい漢方」として患者に受け入れられやすいのが特徴です。
    • 早期抑制と安全性: 中枢性鎮咳薬(リン酸コデイン等)に比して早期の抑制効果が期待でき、気道クリアランス(去痰作用)も改善します。また、便秘を誘発せず、むしろ潤いを与えることで通じを改善する利点があります。
  • 鑑別と合方
    • 半夏厚朴湯: 乾燥より「痰」や「気うつ(喉の違和感)」が主。
    • 五虎湯(麻黄製剤): 体力があり、喘鳴を伴う強い咳。
    • 清肺湯(肺熱): 炎症が強く、粘稠な痰を伴う状態。
    • パワーアップ案: 虚証や口渇、下半身の冷え(腎虚)を伴う場合は、八味地黄丸を合方することで劇的な効果向上が期待できます。
  • 安全性への留意点(重要) 本剤に黄金(おうごん)は含まれませんが、**半夏(はんげ)**による肝機能障害や間質性肺炎の可能性は否定できません。DLST(薬剤誘発性リンパ球刺激試験)等においても半夏が原因となる例が報告されているため、定期的な血液検査によるモニタリングを怠らないでください。

3.2 経穴(ツボ)と生薬の各論

  • 三間(さんかん): 大腸経の第3経穴(人差し指の第3中手指節関節近位外側)。呼吸器症状(咳、喉の痛み)のみならず、眼精疲労、歯痛、フェイスラインのむくみにも有用です。患者教育には、YouTube等のハイテンションな解説動画を活用するのも一案です。
  • 蒼朮(そうじゅつ): ホソバオケラの根茎。学名 Lancea は「槍」に由来し、メスを意味する「ランセット」と語源を共にします。
    • 白朮(びゃくじゅつ)との対比: 白朮が「健脾・止汗」に働くのに対し、蒼朮は「利尿・発汗・鎮痛」作用が強く、水滞(浮腫)や痛みの除去に特化しています。
    • 応用方剤: 二陳湯(五十肩等の痛み)、十味敗毒湯(皮膚の腫れ)、桂枝加朮附湯(関節痛)、防已黄耆湯(膝の水腫)など、痛みと水滞を伴う疾患に広く応用されます。